BBCのWebサイト に2021年6月に掲載された、生理小屋に関する記事「Banished for bleeding: tribal Indian women get better period huts」を翻訳し、転載します。
インド西部マハラシュトラ州で、生理中にトライバルの女性や少女が隔離される「生理小屋」を、改装する試みが慈善団体により行われています。小屋の改装は、女性たちに安全な場所を提供する一方で、将来の目標として、生理小屋の慣行を根絶することが重要であること。それはとても難しいことだが、希望はある…ということが述べられます。
記事では、インドにおける生理小屋の問題への対応について、SPARSH代表のディリップ・バルサガレさん(Dr.Dilip Barsagade)のコメントも述べられています。ディリップ・バルサガレさんには、この5月に開催した”JAFS関東SDGsセミナー「もう一つの生理の貧困 - インド、少数民族の女性たちと生理小屋」”で、メインスピーカーとしてご登壇いただいています。
女性が隔離される小屋:インド、トライバルの女性たちへよりよい「生理小屋」を
By Geeta Pandey
BBC News, Delhi 4 June 2021
”生理小屋”とは、インド、マハラシュトラ州で継承されてきた、生理期間中のトライバル(少数民族)の女性たちが追いやられる”住まい”であるが、今それらが新たにつくりかえられている。
ムンバイに拠点を置く、ケルワディ社会福祉協会(KSWA)は、”クルマガル”あるいは”ガオコール”などと呼ばれる、多くが荒れ果ててしまった小屋を、ベッドや屋内トイレ、水道、そして太陽光発電などの設備のついたものに作り変える活動を行っている。
しかしこれは、そもそも体の自然な機能としての経血に対するスティグマや偏見という問題に直面しなければならないことを浮き彫りにした。(そうしたスティグマの象徴となる)生理小屋は完全に取り除くことが最善の方法だ、と多くの批判を受けた。一方、このキャンペーンに取り組む人々は、たとえ生理に対して「生理は恥ずべきもの」という考え方が続いているとしても、自分たちは女性たちに安全な場所を提供することを続ける、と言う。
インドでは、生理、月経は古くからタブー視され、生理中の女性はけがれているとみなされ、厳しい制約を強いられてきた。女性たちは社会的、宗教的行事への参加だけでなく、寺院、神社、台所にさえも入ることを禁じられる。
しかし、インドにおいて最も貧困率が高く開発が遅れている地域であるガッチロリ県のゴンド、マリアと呼ばれるトライバルの人々における生理中の女性たちの隔離は、きわめて厳しいものだ。
ゴンド、マリアの人々には、女性は生理中の5日間、村の中心から外れた、森の端に位置する小屋で生活しなければならないという信仰がある。生理の間、女性たちは料理をしたり村の井戸から水をくむことも許されない。親類の女性が運んでくる食事や水に頼らなければならない。もし生理中の女性に男性が触れてしまったら、その男性は”汚れてしまった”ことになるため、直ちに体を洗い流さなければならないのだ。
2020年に初めて最新の生理小屋が建てられたトゥクム村女性たちによると、この村には90人生理のある世代の女性がいるが、今は生活がとても楽になったという。
以前は、生理が近づくにつれて、崩れかけた小屋に行くことを考えると恐怖でいっぱいになったという。茅葺き屋根で土と竹で作られた小屋には、ドアも窓もなく、最も基本的な設備さえない。体を洗ったり洗濯するために、彼女らは1キロ離れた川まで歩かなければならなかったという。
スレカ・ハラミさん(35歳)は、「夏には耐えられないくらい暑く蚊が発生し、冬は凍るように寒くなりますし、雨季は屋根からの雨漏りにより床には水たまりができてしまうのです(注)。時々野良犬や豚まで入ってきます」という。
(注)マハラシュトラ州の夏季:3-5月ごろ、雨季:6-9月ごろ、秋:10-11月、冬:12-2月ごろ
シータル・ナロテさん(21歳)は、小屋で自分が一人のときは、夜怖くて眠れないという。「小屋の中も外も真っ暗で家に帰りたいと思うのですが、ここにいるしかありません」
シータルさんの近所に住む、ドゥルパタ・ウセンディさん(45歳)によると、10年くらい前に21歳の女性が小屋の中で蛇にかまれて亡くなったという。
「真夜中を過ぎたころ、その子が(蛇に咬まれ)泣き叫びながら小屋から飛び出してきて私たちは目が覚めました。彼女の親類の女性たちがなんとか彼女を助けようとしました。薬草や、家にある薬を与えたのです。」
「ですが、男性たちは、彼女の親類でさえ、遠くから見ているだけでした。男性は、生理中の女性はけがれているから触れなかったのです。蛇の毒が彼女の体を回るにつれ、彼女は痛みで倒れ、数時間でなくなりました」
ビデオ通話を通して、女性たちは新しい小屋を見せてくれた。小屋は砂の入ったリサイクルのペットボトルからできており、カラフルな色に染められた数百ものボトルキャップが壁を埋め尽くしていた。部屋の中にはベッドが8台、そして”最も重要なことに”、と強調し、屋内トイレがあり、鍵がかかるドアがある。
KSWAの二コラ・モンテイロ氏は、この新しい小屋は65万ルピー(およそ117万円)、2か月半ほどかかるという。このNGOはこれまで4つの生理小屋を建てており、近隣の村に6月中旬までにあと6つの小屋を建てることになっているという。
これまで15年にわたりこの地域で活動してきたNGO、SPARSHの代表であるディリップ・バルサガレ氏は、数年前223件の生理小屋を訪問したが、そのうち98%が「不衛生かつ危険」であったという。
村の人々から得られた話をもとに、バルサガレ氏は、クルマガル(生理小屋)で隔離されたために、完全に避けられたはずの理由で亡くなった女性が少なくとも21人いることを明らかにし、報告書を作成した。
「ある女性は蛇にかまれて亡くなりました。またある女性は熊に連れ去られたのです。そしてまたある女性は高熱にうなされてなくなりました」
バルサガレ氏の報告書は、インド国家人権委員会(NHRC)を動かし、マハラシュトラ州政府に対し、この慣習は女性の人権、安全、衛生そして尊厳への深刻な侵害であり、廃止するよう命じた。しかし、数年後もなお、この慣習は根強く残っていた。
記者(Geeta Pandey)がインタビューした、トゥクム村のすべての女性たち、そして近隣の村々の女性たちは、生理小屋にはいきたくない、必要なものもないし、怒りさえも覚える、と答えた。一方彼女たちは、何百年も続いてきた伝統にしみこんでいる習慣など変えられない、ともいう。
スレカ・ハラミさんは、もし自分たちがこの伝統に逆らったりしたら、神の怒りに触れ、家族にまで病気や死を招くことになるのではないかと恐れているという。
「私の祖母も、母もクルマガルに行きました。私も毎月行っています。いつか、私は自分の娘も行かせることになるのです」
村の長老であるシェンドゥ・ウセンディさんは、BBCに対して、「我々の神々が定めたものだからこの慣習は変えることはできない」という。
ウセンディさんは、逆らえば罰を受けることになる。罰とは、例えば村全体に豚肉や羊肉を使った豪勢な食事をふるまう、あるいは罰金を支払うことだ、という。
こういった制約を正当化するために、宗教や伝統が主な理由として引き合いにだされるものだが、徐々に都会では教育を受けた女性たちがこうした退行的な考え方に異議を唱えるようになってきている。
女性たちのグループが、法廷にまで出向き、ヒンドゥー教の寺院、ムスリムの神社に入ることを訴えた。さらに、#HappyToBleedなどのソーシャルメディアにおけるキャンペーンが組織され、生理に対する偏見やスティグマを取り去ろうとしている。
「ですがここはとても開発が遅れている地域であり、変化は常に緩やかです。私たちの経験から言えるのは、これを急激に変えることはできないということです」モンテイロ氏はいう。
「新しい生理小屋は、今、女性たちに安全な場所を提供します。一方で、私たちは、部族社会に対する教育を通じて慣行を根絶するという将来の目標を追求しています。」
そしてそれは言うは易く行うは難しだ、とバルサガレ氏はいう。
「私たちはよりよい生理小屋が正解ではないと知っています。女性たちは生理の間、身体へのサポートのみならず、情緒面へのサポートも必要なのです。そしてそういったことは家庭でのみできるのです。ですが、こういった訴えや抵抗は簡単ではないことがわかってきました。私たちは状況を変える魔法の杖は持っていません。これまでのところ、最大の問題は女性たちでさえもこのことが人権侵害であると理解していないことなのです。ですが、若い世代の多くに変化がみられています。教育を受けた女性たちはこの慣習に疑問を持ち始めているのです。時間はかかるでしょうが、将来変化がみられるでしょう」
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